日本のエネルギー政策の方向性を示す最新の指針として、第7次エネルギー基本計画(以下、第7次計画)が2025年2月18日に閣議決定されました。これは、2021年10月に策定された第6次エネルギー基本計画以降のエネルギー情勢の大きな変化を踏まえ、より長期的な視点に立って日本のエネルギーの未来を描くものです。
世界的なエネルギー市場の不安定化や、地球温暖化対策の加速、そして国内の原子力発電所の稼働状況など、エネルギー政策を取り巻く環境は常に変化しています。
とくに、2050年のカーボンニュートラル実現という目標に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大は喫緊の課題であり、なかでも太陽光発電は重要な役割を担うことが求められています。
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目次
第7次エネルギー基本計画とは?
経済産業省は、今後のエネルギー政策の方向性を定める「第7次エネルギー基本計画」の原案を、2024年12月17日に有識者会議(総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会)において公表しました。この原案は、2040年度の電源構成を見据え、エネルギー安全保障とカーボンニュートラルの実現に向けた重要な政策指針となるものです。
その後、国民からの意見を広く募るパブリックコメントなどの手続きを経て、第7次エネルギー基本計画は2025年2月18日に閣議決定されました。その概要や、2040年度におけるエネルギー需給の見通しといった関連資料は、経済産業省の資源エネルギー庁のウェブサイトで公開されており、誰でもアクセスすることができます。
第7次計画が、原案公表から約2ヶ月という比較的短い期間で閣議決定に至った背景には、エネルギー政策を取り巻く喫緊の課題への対応を急ぐ政府の姿勢がうかがえます。とくに、世界情勢の変動に伴うエネルギー供給の不安定化や、脱炭素社会への移行という大きな目標達成に向けて、迅速な政策決定が求められていたと考えられます。
専門家・業界団体の見解、第7次計画における太陽光発電の予測
第7次エネルギー基本計画における太陽光発電の位置づけについて、多くの専門家や業界団体は、再生可能エネルギーのなかでもとくに太陽光発電が、日本のエネルギー政策においてこれまで以上に重要な役割を果たすと見ています。
計画では、2040年度の電源構成において、再生可能エネルギーの比率を40~50%にまで引き上げる方針が示されており、その中でも太陽光発電は22~29%を占め、主要電源のひとつとなることが見込まれています。
一般社団法人日本経済団体連合会は、今般提示された第7次エネルギー基本計画の案を概ね評価しており、S+3E(安全性、エネルギー安定供給、経済効率性、環境適合性)の大原則のもとで、再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電源の最大限の活用を図るべきであるという考えを示しています。
一方で、再生可能エネルギーの導入促進を目指す団体からは、政府が掲げる2040年度の再生可能エネルギー比率40~50%という目標は、ヨーロッパなど海外の主要国と比較すると依然として低い水準であるとの批判も出ており、より野心的な目標設定を求める声も上がっています。これらの団体は、再生可能エネルギーこそが低コストでエネルギー自給率向上にも貢献すると主張しています。
このように、専門家や業界団体の間では、第7次計画において太陽光発電を含む再生可能エネルギーが重要な役割を担うという点では概ね共通認識があるものの、その具体的な導入目標の水準や、原子力発電とのバランスについては、それぞれの立場や視点によって異なる意見が存在しています。
政府は、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性、そして安全性の確保という多岐にわたる要素を考慮しながら、現実的かつバランスの取れたエネルギー政策を目指していると考えられます。
日本における太陽光発電の現状(導入量、発電量、コスト、課題)
日本の太陽光発電は、固定価格買取制度(FIT)の導入などを背景に、近年急速に導入が進んできました。2014年から2023年までの10年間で、累積導入量は3倍以上に拡大し、2023年度末時点での累積導入量は約73.1GWに達しています。
発電量についても、2023年度には年間921億kWhに達しており、これは日本全体の総発電電力量の約9%に相当します。
また導入コストは、技術開発や市場競争の進展により年々低下しており、2023年にFIT制度の認定を受けた場合の導入費は、1kWあたり約28万円となっています。発電コストも同様に低下傾向にあり、2023年度の平均では1kWhあたり9.4~14.2円の水準となっています。
しかしながら、太陽光発電の普及には依然としていくつかの課題が存在します。ひとつが、天候に左右される発電量の不安定性です。また、日本の国土は狭く、大規模な太陽光発電所を設置するための適地の確保も課題となっています。さらに、電力系統への接続(系統連系)の制約や、発電量の変動を吸収するための対策、使用済み太陽光パネルの適切な廃棄・リサイクルシステムの構築なども重要な課題として挙げられます。
過去のエネルギー基本計画との比較分析、太陽光発電の位置付けの変遷
過去のエネルギー基本計画における太陽光発電の位置づけを振り返ると、その重要性が年々高まっていることが明確にわかります。
2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成において、再生可能エネルギーを「主力電源」と位置づけ、その中で太陽光発電は、導入量の増加とコスト低減により、重要な役割を担うことが期待されていました。
2021年10月に決定された第6次エネルギー基本計画では、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減するという高い目標を掲げ、その達成に向けて再生可能エネルギーの最大限の導入を推進する方針が示されました。具体的には、2030年度の再生可能エネルギー比率を36~38%とする目標が設定され、太陽光発電もその重要な構成要素として位置づけられていました。
そして、最新の第7次エネルギー基本計画では、2050年のカーボンニュートラル実現を見据え、2040年度の電源構成において、再生可能エネルギーの比率をさらに引き上げ、40~50%とする目標が示されました。その内訳として、太陽光発電は22~29%を占める見込みであり、第6次計画に比べて、より明確に主力電源としての位置づけが示されています。
一方で、原子力発電の位置づけには変化が見られます。過去の計画では、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、「可能な限り依存度を低減する」という文言が盛り込まれていましたが、第7次計画ではこの文言が削除され、「再生可能エネルギーとともに、最大限活用する」という方針が示されています。この変化は、再生可能エネルギーの拡大とともに、エネルギーの安定供給と経済効率性を確保する上で、原子力発電も重要な役割を担うという政府の考えを示すものと考えられます。
政府の議論、太陽光発電の導入目標と推進策
政府は、第7次エネルギー基本計画において、2040年度に太陽光発電の導入量を現在の約3倍に増やすという意欲的な目標を掲げています。この目標を達成するため、さまざまな設置場所を活用した導入拡大策が議論されています。
具体的には、住宅の屋根への設置を最大限推進するほか、オフィスビルや工場、そして耕作放棄地などの未利用地を活用した太陽光発電の導入も積極的に進める方針です。最近注目されている営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)についても、農業との両立を図りながら導入を拡大する方針が示されています。さらに、工場や空港、道路、鉄道、港湾などのインフラ空間への太陽光発電システムの設置も推進していく考えです。
2040年には、設置可能なすべての建築物に太陽光発電を導入することを目指しており、新築住宅における太陽光発電設備の設置割合を2030年までに60%に引き上げる目標も設定されています。地上設置型太陽光発電の導入を拡大するため、地方自治体が主体となって再生可能エネルギー促進区域を設定する取り組みも支援されています。
また、次世代型の太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池などの早期社会実装に向けて、技術開発や実証プロジェクトへの支援を強化しています。
これらの導入を促進するため、政府はFIT制度やFIP制度といった支援策を継続し、初期投資の回収を支援したり、金融機関からの融資を受けやすくするためのサポートを行っています。
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主力電源化に向けた課題と対策案
太陽光発電を日本の主力電源の一つとするためには、いくつかの重要な課題を克服する必要があります。主な課題としては、電力系統への接続(系統連系)の制約、発電量の変動対策、コストの削減、そして使用済み太陽光パネルの廃棄問題などが挙げられます。
系統連系に関しては、再生可能エネルギーの導入拡大に対応できるよう、送電網の増強や運用効率の向上が不可欠です。また、地域間で電力を融通するための連系線を最大限に活用することも重要です。
太陽光発電の出力は天候によって大きく変動するため、安定した電力供給を確保するためには、出力変動対策が重要となります。その対策として、大容量の蓄電池を導入し、余剰電力を貯蔵したり、電力需要が高まる時間帯に放電したりする取り組みが進められています 。
また、揚水発電の活用や、火力発電との連携、電力需要を時間帯によって調整するデマンドレスポンス(DR)、複数の分散型電源を束ねて一つの発電所のように機能させるVPP(仮想発電所)の構築なども有効な対策として考えられています。出力制御についても、その最適化が図られています。
コスト削減は、太陽光発電の更なる普及にとって不可欠な要素です。技術開発による発電効率の向上や、大量生産によるスケールメリットの追求、そして競争入札の導入などが、コスト削減に向けた取り組みとして推進されています。
そして、今後大量に排出されると予想される使用済み太陽光パネルの廃棄問題への対応も急務です。不法投棄を防ぎ、資源を有効活用するため、義務的なリサイクル制度の導入や、リユース・リサイクルのための技術開発が進められています。
地域別の動向、九州地方(沖縄を除く)における太陽光発電
九州地方は、全国的に見ても日照時間が長く、太陽光発電の導入が非常に進んでいる地域です。2022年3月末時点での九州本土における太陽光発電の接続量は10.9GWに達しており、これは全国の約2割に相当する量です。
しかし、電力需要に対する太陽光発電の導入量が多いため、電力需要が少ない時期や時間帯には電力供給が需要を大きく上回り、出力制御が頻繁に実施されるという課題も抱えています。
九州電力は、この出力制御による影響を低減し、再生可能エネルギーの更なる導入を促進するため、さまざまな対策に取り組んでいます。たとえば、AIを活用した日射量予測の精度向上や、オンラインで出力制御を可能とするシステムの導入、そして出力制御量を削減するためのオンライン代理制御といった独自の取り組みを進めています。また、電力需要の創出を図るため、電気自動車の普及促進や、蓄電池の導入支援なども行っています。
福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の各県においても、それぞれの地域特性を踏まえた太陽光発電の導入目標や支援策が策定されています。たとえば、佐賀県は住宅用太陽光発電の普及率が全国トップクラスであり、地域ごとの特色ある取り組みが見られます。
九州地方における太陽光発電の現状と政策動向は、今後の日本の再生可能エネルギー導入戦略を考える上で、非常に重要な示唆を与えてくれます。
第7次エネルギー基本計画における太陽光発電の展望
2040年度の電源構成において、太陽光発電は大きな割合を占めることが見込まれており、主力電源としての期待はますます高まっています。しかし、その目標を達成するためには、系統連系の強化、出力変動対策、コスト削減、そして使用済みパネルの適切な処理といった、多くの課題が残されています。
とくに、再生可能エネルギー導入の先進地域である九州地方の経験は、これらの課題への対応策を検討する上で貴重な示唆を与えてくれます。九州電力の出力制御対策や、各県ごとの独自の取り組みは、今後の全国的な展開のモデルとなる可能性があります。
技術革新、たとえば次世代太陽電池の開発や、蓄電池の高性能化、スマートグリッドの構築などは、これらの課題解決に大きく貢献することが期待されます。また、政府の継続的な政策支援も、太陽光発電の導入を後押しする上で不可欠です。
第7次エネルギー基本計画における太陽光発電への強い期待と、その実現に向けた取り組みが進むことで、太陽光発電は今後も日本のエネルギー政策において、中心的な役割を果たしていくと確信されます。
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